世界の水面に投げ込んだ小石は
水泡を跳ね上げることもなく
一重の波紋を浮かばせて消えていった

結局この世界に於ける私の存在は
それぐらいの大きさということだろう
この胸を切り開いて差し出した
声高に泣く心臓の重さと意味は

電線にとまる烏が鳴いている
その黒い羽を夕焼けに惜しげもなく晒し
にんげんには決して聞き取れぬ声で
『ごらん、もうすぐ夜が来るよ』

沈みゆく小石の行く先には
過去と未来が混ざった色彩があるだろう
群青も濃藍も通り越した
うつくしい濡れ羽色のふかい闇が

どこかで甲高い産声が上がった朝
私は澄みきった空に遺書をしたためた
雲の糸で書かれたその文字が
空を見上げる誰かの目に留まることを祈って