──あなたは私ではない
そんなあたりまえのことが
奇跡のように思える瞬間がある

カーテンの隙間から差し込む朝日に
微睡みながら目を開けると
隣で寝ているあなたがいる
例えばそんな時に

──あなたは私ではない
そんなあたりまえのことが
悪夢のように思える瞬間がある

すべての音を吸い込む暗闇の中
頭を深く垂れて膝を抱え
何一つ語ろうとしないあなたの背中を見る
例えばそんな時に

私があなたであったのなら
その痛みを分け合えるのに
あなたの悲しみをぜんぶ私に移して
あなたが本当に欲しい言葉をあげられるのに

あなたでない私はいつも
その背中を見つめることしかできない
かけるべき言葉を見つけられず
あなたと同じように黙り込むことしか

けれど
私はあなたではないから
その背中に触れることができる
体を抱きしめることができる
涙をこらえるあなたの額に
そっと口づけを落とすことができる

やっぱりこれは奇跡なのよ
どうしようもなくあたりまえで
どうしようもなくすばらしい

奇跡