「人間は根本的喪失型生物である」



  侵した罪の数だけ人は喪失と向き合い
  誰かとの愛をゆりかごの如く紐解く
  寂れた夜に目覚める未来を守り抜くには
  どれ程の過去を忘れればいいのか
  明日の色すら分からぬ御座なりの今日に

  絶望が世界を包み また人は独りになる
  全ての愛を忘れ また人は名を持たぬ生き物となる
  どれ程に贖罪を重ねればいい
  どれ程の過ちを犯せば人は救われる………

  世界をくるむ光に全ての者が惑わされ
  いつしか己を滅ぼす光を人は神と崇めた
  緩やかな覚醒を起こす未来を人は傷付ける事を選んだ
  穏やかに眠りにつく過去を人は揺り起こす事を選んだ

  滅びゆくこの躰と廃れゆくこの心と
  そして尽き果ててゆく命の源で
  ひっそりと込み上げてくるものの名を
  人は未だ知り得る事がない

  全ての真実を覆い 全ての嘘を覆い
  誰も知らぬ力で全てを剥き出しにしようとする者の名を
  何故人が語る事が出来ようか
  終わらない時間はここにある
  見る事の出来ぬ未来もここにある
  だがそれは 至極当たり前の事

  生きる事を罪とするならば
  死に逝く事は果たして償いか
  そうとするならば何故人はこんなにも長く
  己の罪を全うせねばならないのか
  …それ程に地球は優しい生物であっただろうか…

  朽ち果てた未来と 壊れゆく今日と
  そして産声を上げて目覚める過去に
  人はもう 何も言う事が出来ない
  ただ立ちつくし 丘の上から
  誰かも見ているであろう月を見上げ
  いつしか終焉がこの世界に来たる事を分かりながら
  その時を静かに迎えなければならない

  人が生きる代償として
  人が生きる証として
          






人間は先天的忘却型生物である